728x90

2016年7月6日水曜日

歴史教科書問題に解決は見られるのか(1)

日本・韓国・中国の歴史教科書問題に解決は見られるのか。

条件付きで、そして近隣諸国との関係を良いものとするために、積極的に取り組むべき問題としてYESと答えたい。しかし、歴史教科書、そして歴史認識問題の近年の動向を見てもなかなかポジティブに解決すると簡単には言いきれない現実がある。

日・中・韓の間で、歴史の認識と解釈、特に第二次世界大戦中の日本の植民地支配、歴史的事件を巡り大きな議論となり、外交問題になって久しい。特に近年は、橋下議員の慰安婦発言(国際的なニュースになった)、それら歴史認識に反発するように、アメリカや韓国各地(在韓日本国大使館前)の慰安婦像設置され、その数も増えている。また、中国が世界記憶遺産に南京大虐殺を登録したことなどが記憶に新しい。

ここハーグで7月6日、Teaching for Peace - History in Perspective conferenceが行われたので、出席した。主催はNGO Forum for Peace in East Asia。会議の参加者の多くは韓国で、歴史を教える高校・大学の教員、教科書の著者が多い様子、その他私のようにオランダ在住の人たちであった。
感情的にヒートアップしてしまいやすい問題だけに、どのように会議が進行されるのか、怖くもあり興味もあった。午前中をいっぱいに使った会議では複数のスピーカーやパネリストが会議の方向性、狙い、そして事例などを発表したが、中でも、オランダのグロ二ゲン大学Antoon教授(歴史家)のレクチャーは、短い時間での発表にも関わらずよく整理されており、非常に説得力のあるものだったので、ここにレクチャーの内容を紹介したい。

歴史的不正義とは何か、歴史家は何が出来るのか。教授の発表はこのタイトルに忠実で、一つ目のポイント歴史的不正義とは何かと定義、そこに含まれる要素についてポイントを押さえた説明の後、二つ目のポイント歴史家あるいは歴史教育に携わる人が何が出来るかについて議論した。

不正義とは、全ての戦争犯罪を含めた行為、それらの過去からの蓄積。それら不正義には、必ず犠牲者がいる。犠牲者には犯罪から直接的に影響を受ける直接的犠牲者と直接的犠牲者の家族(親族は含めない。ここでは、家族とはどこまでが含まれるのかも議論の1つとなる。)である間接的犠牲者がいる。また同時に加害者もいる。加害者とは犯罪行為の実行者であるが、加害者には直接・間接の別はない、なぜなら誰かに危害を加えるという行為においては「間接的」であるということはないから。

また歴史的不正義というときに、時間的に遠くはない昔、最近に起こったもので、被害者・加害者ともにまだ生きているRecent injustice と被害・加害者ともに時がたち過ぎているためになくなってしまっている、Remote injustice がある。
生きている加害者には、法的な裁きを行えるが、既に亡くなってしまっている場合は勿論、その罪状を追求し、法的な裁きを下せない。同時に生きている被害者には、補償がなされなければならない。

国連は補償の5つの形を提唱している。1. Restitution (補償:被害者が被害に遭う前の状態に戻すこと。例:自由を得ること、人権の回復すること、人権、市民権、家族、生活していた土地に戻ること、財が返還されるなど。), 2. Compensation (賠償:精神的・肉体的苦痛、機会の喪失、道徳的なダメージによってもたらされる経済損失への賠償)、3. Rehabilitation (被害者への医療・精神的なサポートを含む)、4. Non-repetition grantee (二度と繰り返さないという約束)、5.Satisfaction (象徴的な補償:公式謝罪、遺体の捜索と改葬、法的制裁など) 

ただ、これらの5つの内4つは生存している被害者には有効で5番目に挙げた象徴的な補償は既に亡くなった被害者に有効である。また、remote injustice (被害・加害者ともに既に他界している)場合もこの象徴的な補償をもって対処されるべきである。

歴史的な不正義とその要素は上記の通りであるが、これらを踏まえて歴史家あるいは歴史教育(NGOワーカーも含めて)携わるものは何ができるのか。
参照資料
THE UNITED NATIONS BASIC PRINCIPLES AND GUIDELINES ON THE RIGHT TO A REMEDY AND REPARATION FOR VICTIMS OF GROSS VIOLATIONS OF INTERNATIONAL HUMAN RIGHTS LAW AND SERIOUS VIOLATIONS OF INTERNATIONAL HUMANITARIAN LAW
http://legal.un.org/avl/pdf/ha/ga_60-147/ga_60-147_e.pdf

0 件のコメント:

コメントを投稿